福岡家庭裁判所 昭和36年(家ロ)15号 命令 1961年8月07日
申立人 春日サヨコ(仮名)
相手方 鶴田寿男(仮名)
主文
福岡家庭裁判所昭和三六年(家)第一三四六号乃至第一三四八号親権喪失宣告申立事件の審判確定に至る迄相手方の未成年者長谷文子、同長谷由美、同長谷隆之に対する親権行使を停止する。
申立人を上記三名の未成年者に対する監護権代行者に選任する。
(家事審判官 山田市平)
事件の実情
一、申立人と相手方は昭和二十三年八月結婚し、事件本人たる未成年者長谷文子を昭和二十七年十一月○日、同長谷由美を昭和二十九年六月○○○日、同長谷隆之を昭和三十一年六月○○日それぞれ出生したが、昭和三十四年十月十三日協議上の離婚をした。
二、上記離婚の原因は相手方長谷直正に女性関係が多く不貞行為があつたこと、同人が財産を擅に処分して浪費していたこと、及び申立人自身、自己の結婚を反省し、将来、女ながらも事業に生きると同時に事件本人等の育成に生甲斐を発見しようと決意したこと等であつた。併し乍ら離婚の際、相手方を各未成年者たる事件本人等の親権者として届出でたものであつた。
三、かくして離婚したが、事実上は今日迄、申立人において事件本人等三名の子供を引き取り扶養、監護して来たのである。
申立人は昭和二十五年頃、肩書地の○○荘を社会施療病院として新築したが、現在までアパートとして利用し、これを経営している。而して同建物の新築費用支払のため申立人は方々より借金したが、何とか今日まで申立人の所有名義を維持して来たものである。
同建物の敷地一七九坪は市の所有地であるが、新築当時の建築目的から市が貸与し、何れは申立人に払い下げるとの話があつた。そして昭和二十四年頃より、市の敷地払い下げの話が現実的になるにつれて相手方は申立人と離婚したものの何とか同建物に対する申立人の所有名義を奪つて建物所有者としての敷地払い下げを自己に受けようと企てた結果、同年十一月二十五日申立人を欺罔又は強迫して申立人に「同建物の半分を贈与する等」の金銭支払い、執行受諾約款ある公正証書を作成させた。そして同公正証書を債務名義として上記建物の強制競売を相手方が申立てたが請求異議、執行停止の裁判によりその目的を達せずとみた相手方は両者間に和解を成立させ、その協定書を作成した。
四、申立人はこれで万事解決したものと思つていたところ本年八月一日午前九時過ぎ頃、相手方は予て共謀の○○○精神病院の若者、数人を申立人宅に差し向け、申立人を相手方の一室に呼び入れ、突如、相手方等上記数名の者が申立人をベツドに押し倒し、数枚のタオルを申立人の口頭に押し込み、エーテルを鼻に押し付けてこんすいさせ申立人をハイヤーに乗せた上、○○の同病院に運び込み、その一室に申立人を監禁した。そして「精神病だ」と精神病人に仕立てようとしたのである。ところが同日午後一〇時頃原口弁護士がこれを知り、自家用車で同病院に駆けつけ、十一時頃申立人を救出して連れ帰つた。
この事件については即日告訴中であり(福岡署)また福岡法務局人権擁護部に提訴調査中である。
五、斯くの如く相手方は建物乗取りの手段方法として合法、非合法の非常手段を弄しているが、自己の手口が失敗するにつけて、益々悪質、犯罪性を帯びて来ている。そして今度は自己が事件本人等の親権者ということで申立人の手元から事件本人等三人の未成年者を連れ去らんと計画しているのである。昭和三十五年中頃公正証書による裁判当時にも相手方は情婦と通じて子供を連去ることを計画していたが、上記の如く自己の手口が次々と失敗したため、必ずこの挙に出でること明らかである。相手方は自己の財欲獲得の手段として事件本人三名の者を申立人から奪い、申立人に最大の苦痛を与え、目的を達せんとしている。相手方はもともと申立人と結婚以来、女関係不貞行為多く、現在まで十人位の女性と不倫な関係にあつた。特にここ六年間位はある特定の主人のある女性と住吉で同棲していた。にも拘らず申立人のアパートの一室を占拠して常に申立人の動静を監視しているのが現状であるけれども、現在においても二十五日位女の許に外泊したりしているのである。
六、以上の如く女性関係が多く、不倫の関係のあるほか、相手方は定職なく、性格はいん険で扶養監護等の能力はない。のみならず自己の財産乗取りの手段として事件本人等を利用し、泣き叫ぶ子供達を自己の一室に閉じ込めて出さないとか、申立人から連れ去らんと計画したり、親権を濫用し、濫用する危険性が急迫している。相手方の以上の如き著しい不行跡及び親権の濫用は事件本人等に不幸そのものであり、未成年者たる事件本人等を保護するためこの際、相手方の親権を喪失させること緊要と信ずる。
よつて民法第八三四条、家事審判法第九条第一項甲類一二号、同法の規則第七三条等に則り相手方針谷直正の親権の喪失宣言ありたく、本申立に及ぶ次第である。